海之まりん的日常

2005年 09月 20日 ( 1 )

落日の剣







落日の剣―真実のアーサー王の物語
(上)若き戦士の物語 〈下〉王の苦悩と悲劇
ローズマリ サトクリフ Rosemary Sutcliff 山本 史郎 山本 泰子 / 原書房

最近、ローズマリー・サトクリフが、けっこう話題らしい。
以前、とあるハーブ研究家の方がハーブにまつわる物語として(主人公を想う少女が主人公にローズマリーの花を渡すシーンがあるのだ)紹介していらした『運命の騎士』を読みたくて探したときはどこにもなくて、県立図書館の書庫から司書の方に発掘(そんな大げさな)していただいたのだが、ここ数年のうちに何冊も新しい本が出版されていた。
いつのまにっっっ。
どうやら、近年になって歴史小説家としてのサトクリフの評価が上がったらしい。
ローズマリー・サトクリフは1920年生まれ、1992年没のイギリスの歴史小説家。
歴史を題材としたファンタジックな児童文学(たとえば『運命の騎士』のような)もたくさん発表しているそうなので、もしかしたら、子供のころ、学校の図書館で読んだという人もいるかもしれない(ちなみに、まりんの学校にはなかったと思う。少なくとも、まりんは読んだことがなかった)。
この『落日の剣』は、『真実のアーサー王の物語』という副題が示すとおり、アーサー王伝説のお話。
といっても、世間がよく知られているようなお話ではない。エクスカリバーはもちろん、ランスロットもマーリンもレディ・グウィネヴィアも出てこないのだ。
どうやら、ランスロットは時代がずっとずっと下がってからフランスあたりで創作されたキャラらしい(そうだったのか)。
アーサーにしても、紀元前五世紀ごろに活躍したといわれる『アルトス』と呼ばれる人がモデルだろうということくらいしかわかっていないそうだ。
ローズマリー・サトクリフは、わずかに残る歴史的資料を拾い集め、つなぎ合わせ、この小説を書いた。ストーリーの多くはローズマリー・サトクリフの卓越した想像力の産物だが、その想像力は歴史的事実にしっかりと根付いている、ということになる。
というわけで、あらすじ。

ストーリーは、主人公アルトスがブリテン王アンブロシウスから剣を授けられるシーンから始まる。アルトスの曽祖父・皇帝マクシムスの玉璽である紫水晶のはまった剣だ。
妻を娶らず、子も生さなかったアンブロシウスは、兄ウーゼルの子であるアルトスを我が子のようにかわいがっていたが、アルトスの母は身分が低く、妾腹であることから、アルトスがブリテン王を継承することは簡単なことではなかった。
アルトスは、自らアンブロシウスの家臣としてブリテン伯爵を名乗り、軍隊を率いてサクソン人の討伐へ向かうことを望むのだった。
アルトスの部下は、豪放磊落なケイ。太刀持ちのチビ助ことフラビアン。
やがて、修道院で医学を学んでいたグワルフマイ、吟遊詩人ベドウィルを仲間に加え、アルトスは海を越えて攻め込んでくるサクソン人と戦い続けるのだった。

って……。
あらすじ、こんだけか……。
いや、詳しく書くと、ほんとにいろいろあって大変なことになってしまうので、まあ、大まかなところだけ。
アルトスの妻となる女性も出てくる。
名前はグエンフマラ。アルトスが望んだわけではなく、なかば同盟のための政略結婚だった。
グエンフマラは、やがて、アルトスの部下であるベドウィルと恋に落ちる。
このあたりは、よく知られている、グウィネヴイアとランスロットのエピソードと同じ。
グエンフマラとベドウィルって、実は、ふたりとも、アルトスのことが好きっぽいんだよね。でも、グエンフマラはアルトスとはすれ違い(とある強烈な女性経験がトラウマになって、アルトスは少々女性恐怖症ぎみ。ここのあたりの経緯は複雑なので、とても一口では語れない)、ベドウィルは男同士。愛されないふたりが、それをよくわかった上で、お互いの傷を舐め合ってるって感がどうも否めない。
『落日の剣』にはゴールトとレヴィンというらぶらぶカップル(もちろん男同士。マジでらぶらぶ)も出てくるし、そういえば、前に読んだ『運命の騎士』のランダルとベービスも、あんたたち、ちょーっと、友情越えてやしないかい?、と言いたくなるようなふたりだった。
それに、アンブロシウスは生涯独身でアルトスを寵愛していたし、アクイラとも妙にわかり合っちゃってる感じだし、この人も、ちょっとソレっぽいと言えば言えなくもない。
もしかして、意外とローズマリー・サトクリフも腐女子体質だったのだろうか???(笑)
そうでなくても、若い男の子を魅力的に描くのが上手な人だと思う。
後年、アルトスの前に立ちふさがるサクソン人・ケルディックや、ケルディックと手を組みその存在自体でアルトスを苦しめるメドラウトの、強さ、猛々しさ、危うさ、狡猾さは、なかなか萌え。
こういうところは、やはり、女の人だなぁ、と思う。このカッコよさは、女の目から見たカッコよさで、男の人が思うカッコよさとは違う気がするから。
ほかには、なかなかさばけた性格のグエンフマラの弟ファリックや、フツーの人生をフツーに生きたフラビアンなんかもいい味出してる。アーサーを影で支える丘の民のドルイム・ドゥは、なんだか弥七みたいでカッコいい。
そして、何よりも美しいのは、古きよきイングランドの自然。
清水が流れ、草花が咲き乱れるその描写を読んでいたら、なんだか、イギリスに行きたくなった。ハドリアヌスの防壁や、りんごの島ことグラストンベリーを見てみたい。
ただ、冬のイギリスは勘弁だ。イギリスの冬があんなに厳しいとは知らなかった。
昔の人にとって、冬を越すのは、大げさでもなんでもなく、命がけだったんだなぁ。

なんにしても、ローズマリー・サトクリフのほかの本も読んでみたくなった。
ただ、この本、誤植がちょっと多いのよね。日本語としてどうよ、と言いたくなるような文章もところどころ見受けられる。改行も少なくてツラい。
原文に極力忠実に訳すのか、それとも、日本語として読みやすく多少脚色を加えるのか、そのあたりは、翻訳家さんとしても、迷われるところだとは思うけど、もう、少し、もう少しだけ、読みやすいとありがたかった。
また、文字間と行間とのバランスもよくない気がする。
ここのあたりも、出版社さま、ご一考、よろしくお願いしますです。
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by marine-umino | 2005-09-20 20:47 | 最近読んだ本



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