海之まりん的日常

疾走

疾走
重松 清 / 角川書店
ISBN : 4048734857

古くからの農家と、干拓によって新しく土地を得た農家との対立にさざめく町で生まれたシュウジは、それなりにおだやかでやわらかな少年時代を過ごしてきたが、両親の期待を一身に集めてきた四つ年上の兄が高校で優秀な成績を上げられなくなってきてから、家庭内には波が立ちはじめ、学校でもかつての親友から手ひどいいじめを受けるようになっていく。折りしも、干拓地に巨大リゾートセンターが建設されることになり、シュウジを取り巻くすべてが彼を追い詰める。崩壊する町。崩壊する学校。崩壊する家庭。その只中で、シュウジは短い人生を疾走する。

男性の作家さんが書かれるミステリ系の小説に多いのが、過去にはそれなりに栄光の日々もあったけれど、今はなんとなく挫折した気分で、でもって、「俺なんて社会の隅っこのクズ同然さ」なんて、クールでニヒルを気取ってる男=主人公。事件の鍵をほんとうは彼が全部にぎっているのに、自分ではちっともそれを自覚していない鈍感さんである。そのくせ、そういう彼を周囲の人たちは、なぜかみんな大好き。「気取らないあなたが好きよ」的に、彼を助けちゃったりする。
本編の主人公シュウジも、ほのか~にそういうタイプのにおいがします。確実にします。でも、あんまり気にはなりませんでした。ただ切実に生きようとする彼の姿に「イキがってんじゃねーよ」という反感よりは、せつなさを覚えるからかもしれません。もちろん、もしかしたら、まりんが若くてかわいい男の子には寛容なだけなのかもしれませんが(笑)。
でも、そのくらい、彼の人生は悲惨の連続です。あるいは、今の世の中には、こういうこともままあることなのかもしれません。それでも、ゆがまず真っすぐ生きようとするシュウジの姿が美しいのだと思います。
それだけに、最後までちゃんと生き抜いてほしかった。犯した罪をつぐない、今度はほんとうの恋をして、更にやさしく生きていく彼を見せて欲しかったと、作者の方には言いたい。
アカネさんが子供を生んだからといって、それが救いになるのでしょうか?
それに、牧師さん。ほんとうは、シュウジを救えるのは彼しかいなかったのではないかと、まりんは思います。でも、牧師さんは、自身の傷に囚われて、必要な時に、シュウジを見守ることはできても、手を差し伸べることはできなかった。そういう意味で、一番罪が重いのは、実は、この人ではなかったのかと……(そういえば、件の主人公のタイプに、この牧師さん、あてはまりますよね。考えたら、この人、このお話のもうひとりの主人公だしなぁ)。

ちなみに、この小説、世にも珍しい(?)二人称小説です。読者には誰かわからない第三者がシュウジに対して「おまえは」と語りかけ、その行動をつづっていくことで小説が成り立っているわけですが、難しいやり方のような気もするのに、大変わかりやすく、また、独特の雰囲気をかもし出しておりました。『疾走』のタイトルどおり、最後まで一気に読めます。というか、読みたくなるお話です。面白いです。
おそらく、岡山から倉敷の間の、児島とか、早島とか、あのあたりがお話の舞台になっているのではないかと思いますが、都会のお金と思惑によって、壊され、壊れていく地方都市の様がありありと描かれていて、田舎者としては身につまされる一冊でした。
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# by marine-umino | 2004-09-22 10:30 | 最近読んだ本

アノニマス

アノニマス
野崎 六助 / 原書房

覗木毒助は落ち目のホラー作家。小説を書けなくなっていた彼は、講師を務めるカルチャースクールの小説教室で、生徒たちが書いたものを自分の著作として発表するべく、ゲームと称して罠をしかけるが、インターネット上で流された悪いうわさに苦しめられるようになる。自分の生徒たちの中に、その存在を知らなかった自分の子供がいるかもしれない。それは、いったい、誰だ?そんな時、クラスで毒助がもっとも優秀だと目をかけていた生徒が変死を遂げ……。

なんか、ワケわかんない話でした。
結局、誰が毒助の子だったのか、それとも誰もそうではなかったのか、いったい、誰がこの茶番をしかけたのか、ちっとも、わかんねー。
毒助が、いつ自分の子供がいるかもしれないと知ったのかもわかんなかったし。
最初、「こいつがそうなのか?」って思わせぶりなとこを見せておいた人物はあっさり殺し、ぞんざいな扱いだった別の人物を後半メインにすえるってのも、意外性をねらったのかもしれないけど、なんかご都合主義っぽい気が……
おまけに、キャラがかぶる登場人物が何人かいて、ちょっとウザいとこもありました。
あたしの頭が悪いのか???
それとも、このわけわかんなさがよさなのか???

まあ、自分でない誰かがいつのまにか自分に取って代わっていく、っていうのは、確かに怖い話ではあります。
というわけで、このお話は、やっぱり、ホラーなんですね。それは、わかったぞ(笑)。
ネットの世界は名前も顔もない『アノニマス』だけど、現実の世界も、実は、そんなに違わないのかもしれません。
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# by marine-umino | 2004-09-16 20:27 | 最近読んだ本

最近読んだ本


『奇術探偵曾我佳城全集』 泡坂 妻夫
奇術探偵曾我佳城全集
泡坂 妻夫 / 講談社
ISBN : 4062101890


曾我佳城は大金持ちでミステリアスな美女。引退した今でも『伝説』と呼ばれる奇術師である。周囲で起きるさまざまな事件を、奇術的考察によって佳城が解き明かしていくミステリ短編集。

長かった……。557ページもあるので、読了には一週間くらいかかってしまいました。とはいえ、一編一編は短いし、さくさく読めます。
これは、面白かった♪
特に、冒頭の『てんとらぽん』のお話が好き。法界先生の『ものを貼りたがる人々』についての考察が特に興味深いと思います。
ストーリーが進んでいくにしたがってキャラクターも増えていきますし、この人はあのお話の時の人ね、と思うと、なんだかしばらく会わないでいた知人に会ったようでとてもなつかしい気持ちにさせられました。
いろいろと楽しめただけに、最後の一話はちょっと不満……。
読者にとっても、曾我佳城は最後までミステリアスな女でいてほしかった。天女のように思われた彼女も、実はただの女だったと知ってがっかりした人は、まりんだけではないはず……。
まあ、その分、これからは串目くんがミステリアスな存在になっていくのかもしれませんが……。
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# by marine-umino | 2004-09-15 22:45 | 最近読んだ本



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